【手術をする獣医が解説】犬の前十字靭帯断裂とは?原因・症状を坂道に止めた車でやさしく解説

散歩のあと、急に後ろ足を浮かせて歩くようになって…
どこか痛めたんでしょうか?

膝の中の前十字靭帯という
大事な紐が傷んでいるかもしれません。

靭帯…ねんざみたいなものですか?

少し違うんです。
膝を坂道に止めた車にたとえると
とてもわかりやすいので、そのお話をしますね。

犬の前十字靭帯断裂は、
後ろ足をかばう原因として
とてもよく出会う病気のひとつです。
名前は難しいのですが、
しくみはとてもシンプルです。
この記事では、犬の膝を
坂道に止めた車
にたとえてお話しします。
このシリーズ(全5回)は、
最後までこの1つの絵で説明していきますね。
- 犬の膝は坂道に止めた車。前十字靭帯は、その車のサイドブレーキ
- 犬の坂道は、もともと下り坂。だから一歩ごとにブレーキに負担がかかる
- ブレーキは突然より、少しずつ傷んで、最後に効かなくなることが多い
- ブレーキが効かないまま走ると、タイヤ(半月板)まで傷む
- 片方が切れた子は、もう片方のブレーキにも注意
犬の膝は坂道に止めた車
膝の中を、少しだけのぞいてみましょう。
- すねの骨の上の面(脛骨高平部)= 坂道
- 太ももの骨 = 坂道に止めた車
- 前十字靭帯 = 車を止めているサイドブレーキ
- 体重・歩くときの力 = 車に積んだ荷物
- 半月板 = 車と坂の間のタイヤ
- 膝のまわりの筋肉 = ブレーキを助ける補助ブレーキ
すねの骨の上の面(脛骨高平部)は、
平らではなく
ゆるい下り坂になっています。
その坂の上に、
太ももの骨という車がのっています。
前十字靭帯は、
車が坂をずり落ちないように引いている
サイドブレーキです。
人の膝との違い
人の膝は、坂がほとんど平らです。
そのため人の前十字靭帯は、
スポーツで急にひねったときなどに
切れることが多いとされています。
一方、犬は
下り坂に車を止めている状態。
立っているだけでも、
ブレーキは休まず働き続けています。
ここが、犬の前十字靭帯が
傷みやすい大きな理由のひとつです。
なぜ切れるの?ブレーキは毎日すり減る
歩くたびに、
荷物(体重)を積んだ車が
坂を下ろうとします。
それを止めているのが、
ブレーキ(前十字靭帯)です。
毎日何千歩も止め続けるうちに、
ブレーキのワイヤーが
少しずつ伸びて、ほつれていく
と考えられています。
犬の前十字靭帯断裂の多くは、
このゆっくり進む傷み(変性)が
土台にあるとされています。
すり減りが早くなりやすいのは、
こんなときです。
- 荷物が重い(体重が多い)
- 坂が急(すねの骨の形)
- 補助ブレーキが弱い(太ももの筋肉が少ない)
- 体質や犬種(大型犬だけでなく、小型犬でも起こります)
海外では、ラブラドール・レトリーバーや
ロットワイラーなどの大型犬に多いと
報告されています。
いっぽう日本では、
トイ・プードルや柴犬など、
小型〜中型の犬でもよく見られます。
私自身も、バーニーズ・マウンテン・ドッグのような大型犬から、
柴犬、キャバリア、トイ・プードル、コーギーまで、
いろいろな犬種の手術をしてきました。
うちの子は小さいから大丈夫、ではなく、
どの犬種でも起こりうる病気
と考えておくと安心です。
避妊・去勢手術のあとは太りやすくなるので、
荷物(体重)が増えすぎないように
気をつけてあげたいですね。

散歩中にジャンプした拍子に、と思っても、
その前からワイヤーはほつれていた、
ということが少なくありません。
ですから、
飼い主さんのせいで切れたわけではない
ことがほとんどです。
あの時ジャンプさせなければ…と、
ご自分を責める飼い主さんはとても多いです。
でも、ブレーキのワイヤーがすり減りやすいかどうかは、
膝の形や体質など、
その子が生まれ持った個性によるところが大きいんです。
飼っている環境が悪かったわけではありません。
ジャンプは、きっかけにすぎないことがほとんどです。
どうか、ご自分を責めないでくださいね。

部分断裂と完全断裂:ブレーキが甘いか、効かないか
部分断裂:ブレーキが甘い
ワイヤーの一部が切れて、
ブレーキが甘くなった状態です。
車が少しずつ坂を下がるので、
ときどき足をかばったり、
休むと良くなったりをくり返します。
良くなったように見えても、
ほつれは進んでいることがあります。
完全断裂:ブレーキが効かない
ブレーキがまったく効かない状態です。
体重をかけるたびに、
車が坂をずり落ちます。
(すねの骨が前にずれます)
膝がぐらぐらして痛いので、
足をつきたがらなくなります。
こんな様子があったら(症状)
- 後ろ足を浮かせて歩く・つま先だけつく
- お座りのとき、片足を横に投げ出す
- 寝起きや散歩の始めにぎこちない
- 階段やソファの上り下りを嫌がる
- 後ろ足の太ももが細くなってきた
どれも、
ブレーキの効かない坂に、荷物をのせたくない
と、体がかばっている状態です。
ただ、両足が同時に傷んでいるときは、
少し見え方が変わります。
2台並んだ車の、
両方のブレーキが甘くなっている状態です。
どちらの足にも荷物をのせたくないので、
片足を浮かせるのではなく、
後ろ足全体をそっと使うような歩き方
になります。
- 歩幅が小さく、ちょこちょこ歩く
- 前足に体重をのせて、前かがみで歩く
- 立ち上がるまでに時間がかかる
- 散歩を途中で嫌がる、座り込む
片足だけをかばう様子がないので、
年のせいかな、腰や神経かな、と
見えることも少なくありません。
気になるときは、膝も一緒に見てもらいましょう。
手術をする立場からお伝えしたいのは、
足を浮かせる日が何日か続いたら、
一度見せてほしいということです。
休むと良くなって、また悪くなる…を
くり返しているあいだに、
タイヤ(半月板)まで傷んでしまうことがあります。
様子を見るのが悪いわけではありません。
ただ、ブレーキの状態は外からは見えないので、
一度確かめておくだけでも安心ですよ。

タイヤ(半月板)も傷むことがある
膝の中には、車と坂の間で
クッションの役目をしている
タイヤ(半月板)があります。
ブレーキが効かないまま
車が坂をずり落ちると、
タイヤがはさまって
つぶれたり、裂けたりすることがあります。
海外の報告では、
前十字靭帯の手術(関節鏡で確認)のときに
およそ3割(32%)の膝で
半月板の傷が見つかったとされています。(※1)
私が手術をしていても、
この数字は実感に近いと感じています。
- 急に痛みが強くなった
- 歩くとカクッ、ポキッと音がする
- 一度良くなったのに、また足を上げるようになった
だからこそ、
ブレーキが壊れたまま、長く走らせない
ことが大切です。
もう片方の足にも注意
後ろ足は、
2台並んで止めた車です。
片方のブレーキが壊れると、
もう片方の車に
荷物が多くのるようになります。
しかも、ブレーキがすり減りやすい体質や
坂の形は、左右で似ていることが多いもの。
米国獣医外科専門医協会(ACVS)は、
片方の膝で発症した犬の40〜60%が、
いずれ反対の膝にも
同じ問題を起こすと説明しています。(※2)
私の病院でも、実際に
そのくらいの子が、反対の膝も傷めています。
荷物を減らす(体重管理)こと、
補助ブレーキを鍛える(筋肉)ことは、
もう片方の足を守ることにもつながります。
病院ではどうやって調べる?
車を手で押してみる(触診)
膝を手で持って、
車が坂の上を前に動いてしまうかを確かめます。
ドロワーサイン、脛骨圧迫試験と
呼ばれる方法です。
怖がったり痛がったりして
力が入ってしまう子は、
鎮静をかけて確かめることもあります。
歩き方を見る
どの足を、どのくらいかばっているかを見ます。
おうちで撮った歩き方の動画も、
とても参考になります。
レントゲン
レントゲンには、
靭帯そのものは写りません。
でも、坂の角度や、
膝の中の腫れ・関節炎の変化など、
ブレーキが壊れたヒントを見つけられます。
エコー(超音波)と関節液の検査
当院では、エコーで
関節液(膝の中の潤滑油)の
量や様子を確かめています。
ブレーキが壊れた膝では、
潤滑油が増えたり、濁ったりすることがあります。
さらに関節液を少しだけ採って調べると、
関節炎や感染など、
ほかの膝の病気との見分けにも役立ちます。
触診・レントゲン・エコー・関節液の検査を
組み合わせることで、
より確かに判断できるようにしています。
よくある質問
-
Q
- 自然に治りますか?
-
切れたブレーキ(前十字靭帯)が、
元どおりつながることは、
基本的にないと考えられています。ただ、膝のまわりが厚く硬くなったり、
筋肉が補助ブレーキとして働いたりして、
痛みが落ち着くことはあります。これは第3回で詳しくお話しします。
-
Q
- 小型犬でも切れますか?
-
切れます。
体の大きさに関係なく起こります。
ただ、手術を考えるかどうかの判断は、
体格によって変わることがあります。
-
Q
- どのくらい痛いのですか?
-
子によって違います。
急に切れたときは、
足をまったくつかないほど痛がることがあります。
部分断裂では、ときどきかばう程度のこともあります。
-
Q
- すぐに手術を決めないといけませんか?
-
多くの場合、検査の結果を聞いてから
ご家族で考える時間はあります。体格・年齢・生活・反対の足の状態を見て、
担当医と一緒に考えていきましょう。
まとめと次回予告
壊れたブレーキとの向き合い方は、
大きく3つです。
- 坂を平らにする:坂そのものを変えて、ブレーキがなくても車が止まるようにする手術
- 代わりのワイヤーを張る:ブレーキの代わりになる糸を外から張る手術
- 荷物を減らし、補助ブレーキを鍛える:手術をしない方法と、その限界
次回から、ひとつずつお話ししますね。
そして手術のあとは、
補助ブレーキ(筋肉)を少しずつ強くする
お散歩が大切です。
これは最終回でお話しします。
後ろ足の様子がいつもと違うときは、
様子を見すぎずに、
一度動物病院で診てもらってくださいね。
前十字靭帯シリーズ(全5回)
同じ坂道の車のたとえで、
順番に読めるようになっています。

第3回(手術をしない場合の保存療法)、
第4回(手術後のリハビリとお散歩)、
第5回(猫の前十字靭帯断裂)は、
近日公開予定です。
参考にした資料
- ※1 Kalff S, Meachem S, Preston C. Incidence of medial meniscal tears after arthroscopic assisted tibial plateau leveling osteotomy. Veterinary Surgery. 2011. doi:10.1111/j.1532-950X.2011.00910.x
- ※2 American College of Veterinary Surgeons(ACVS). Cranial Cruciate Ligament Disease.(米国獣医外科専門医協会の飼い主向け解説)https://www.acvs.org/small-animal/cranial-cruciate-ligament-disease/
今できる最高の選択を。
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