【手術をする獣医が解説】犬のパテラの手術とは?方法・結果・合併症を自転車のチェーンでやさしく解説

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手術をすすめられました。
膝の中で、なにをするんですか?

チェーンが外れないように、
ギアや部品を修理する手術です。

ちゃんと治るのか、心配です…

多くの子で歩き方は良くなります。
ただ、知っておいてほしい合併症もあります。
順番にお話ししますね。

このシリーズでは、
膝のお皿を自転車のチェーン、
太ももの骨の溝をギアの歯にたとえています。

- 手術は決まった一つの方法ではなく、原因に合わせて組み合わせる
- ギアの歯を高く(溝を深く)、後ろのギアを付け替え、チェーンの張りを整える
- 多くの膝で経過は良好。重いグレードほど合併症は増えやすい
- 手術の前に、骨の曲がり・すねのねじれ・筋肉の短さまで調べて、方法を決める
- 手術は通り道を作り直す修理。手術のあとも膝をいたわる毎日を
- 前十字靭帯も切れていれば、一度に手術することもある
手術のゴール
手術で目指すのは、
チェーンが、ギアの歯の上を
まっすぐ、なめらかに通り続けることです。
手術の前に、どこが原因かを調べる

パテラの膝は、
子によって原因の組み合わせが違います。
そこで手術の前に、
自転車のどこを直す必要があるかを調べます。
-
Q
- どんなことを調べるの?
-
- 年齢:骨がまだ育っている途中か
- チェーンの高さ:お皿が、ふつうより高い位置にないか
- フレームの曲がり:太ももの骨が曲がっていないか、ねじれていないか
- ギアの歯の高さ:太ももの骨の溝の深さ
- すねのねじれ:骨がねじれているのか、膝がぐらついているだけなのか
- こぐ力の長さ:太ももの筋肉が、骨に比べて短くなっていないか
- ほかの病気:前十字靭帯、股関節のゆるみなど
-
Q
- なぜ骨の曲がりまで調べるの?
-
太ももの骨の曲がりが強い子は、
それだけでお皿が内側に外れることがあります。(※1)
こうした子では、溝を深くするだけでは足りず、
骨の曲がりを直す手術が必要になります。一方、グレード2の子では、
骨の形より、膝のぐらつきが
かかわっていることもあります。(※2)
-
Q
- すねのねじれは、なぜ大切?
-
すねの骨の出っぱり(後ろのギア)が
本当に内側にずれているのか、
膝がぐらついているだけなのか。
この見分けで、選ぶ手術が変わります。ここを取りちがえると、
手術のあとに足先の向きが
ずれてしまうことがあります。
手術ではなにをするの?

パテラの手術は、
決まった一つの方法ではありません。
その子の膝の原因に合わせて、
いくつかの方法を組み合わせます。
よく行うのは、この3つです。
- チェーンの張りを整える:つっぱった内側をゆるめ、ゆるんだ外側を縫い縮める
- ギアの歯を高くする:太ももの骨の溝を深くする(滑車溝造溝術)
- 後ろのギアを付け替える:すねの骨の出っぱりを外側に移して、ピンで留める(脛骨粗面転位術)
-
Q
- 骨の曲がりが強い子の手術
-
太ももの骨が内側に曲がっている子では、
骨を切って向きを直します(骨切り術)。太ももの筋肉が短く、つっぱっている子では、
骨を少し短くして張りをゆるめることもあります。こうした手術では、
CTで骨の曲がりや筋肉の長さを測り、
手術の前にしっかり計画します。
-
Q
- 糸でねじれを止める手術
-
膝の外側から糸をかけて、
すねが内側にねじれにくくする方法です。
小型犬のグレード2で、骨のねじれがない子など、
向いている子は限られます。
-
Q
- 成長期の子犬の手術
-
成長期の子犬では、
骨の成長を止めないように、
骨の手術の時期を考えます。後ろのギアを付け替える手術は、
基本的に生後5か月以降に行います。
それより小さい子では、
張りを整える手術や溝の手術を中心に行い、
成長が終わってから、
必要なら骨の手術を足すこともあります。
-
Q
- 溝は、深いほどいいの?
-
深ければ深いほど良いわけではありません。
お皿がなめらかに動ける深さを考えて、
骨を削ります。
前十字靭帯も切れているとき
膝の中のブレーキ(前十字靭帯)も切れている膝では、
前十字靭帯の手術と
パテラの手術を
一度に行うことがあります。
このとき大切なのは、
先にチェーンの通り道(お皿と溝)を整え、
それからブレーキ(前十字靭帯)を直すという順番です。

手術の結果

手術を受けた膝の多くで、
経過は良好です。(※3)
手術から4週間ほどで足のかばい方が軽くなり、
その後も4か月ほど
良くなり続けた子たちがいます。(※4)
一方で、グレード3〜4の重い膝では、
結果がよくないこともあります。(※3)
グレード4では、完全に元どおりの機能に戻すのが
難しいこともあります。
チェーンが外れ続けた時間が長いほど、
ギアの歯のすり減りは進みます。
手術を考えるタイミングが大切なのは、
このためでもあります。
-
Q
- 手術のあとも、少し外れることはある?
-
触ると少し外れる膝が残ることがあります。
それでも、歩き方は良くなることが多いです。(※5)
-
Q
- お皿が戻っても、足の使い方が戻らないことは?
-
あります。
手術の前から、お皿の軟骨がすり減っていることが
関係していると考えられています。(※6)
合併症も知っておきましょう
報告によって幅がありますが、
パテラの手術のあとの合併症は
5〜48%とされています。
大きな合併症では、
追加の手術が必要になることが多いです。
起きやすいのは、
グレードが高い膝、体重が重い子、
両方の膝を同じ日に手術した場合などです。
グレード4では、再手術が必要になる膝が
1〜2割ほどあるとされています。
ピンで留めた骨の出っぱりが外れるのは、
手術のあと平均9日ほどと、
早い時期に多いとされています。(※7)
手術のあとの運動制限を守ることが、
合併症を防ぐ大切な一歩です。
くわしくは第4回でお話しします。
-
Q
- どんな合併症があるの?
-
- お皿がまた外れる(再脱臼)
- ピンなど、留め具の折れ・ずれ
- 骨の出っぱりが外れる・割れる
- お皿と骨をつなぐすじが厚くなる・切れる
- 深くした溝の骨のずれ、溝のふちの骨折
- 関節炎が進む
- 神経のまひ、骨がつかない、感染
-
Q
- また外れるのは、なぜ?
-
おもな原因は、
手術の前に見つけきれなかった
お皿の高さ、太ももの骨の曲がり、膝のねじれなどです。ただ、再脱臼の多くはグレード1の軽いもので、
いつも足をかばうとは限りません。だからこそ、
手術の前に骨や筋肉を正確に測り、
その膝に必要な修理をもれなく行うことが大切です。
両方の膝に手術が必要なとき
同じ日に両方するか、
片方ずつにするかは、
膝の状態、体格、
おうちでの過ごし方も含めて、
担当医と相談して決めましょう。
手術の前に用意しておくと安心なもの

退院してから慌てないように、
前もってそろえておきたいものです。
サークル
動きすぎを防ぐことが、
合併症を防ぐことにつながります。
サークルは、たとえばこちらです。
キャリー
手術の日や、術後の通院に。
足に負担をかけずに運べます。
キャリーは、たとえばこちらです。
トイレシーツ
安静の時期は、
サークルの中でトイレをすることも。
トイレシーツは、たとえばこちらです。
お薬を包むおやつ
術後は、痛み止めなどの飲み薬が続きます。
お薬が苦手な子には、包んで渡せるおやつが便利です。
食事制限がある子は、担当医に確認してくださいね。
手術の前の歩き方や、
術後のお散歩の様子は、
私が作っているアプリ「わんダフルデイリー」に
メモしておけます。
※App Store で配信中です(ダウンロード無料)。

よくある質問
-
Q
- 手術のあと、また外れることはありますか?
-
あります。
お皿がまた外れること(再脱臼)は、
手術のあとの合併症のひとつです。(※3・※7)
運動制限を守ること、
決められた日に診てもらうことが大切です。
-
Q
- 入れたピンは、あとで抜きますか?
-
問題がなければ、そのままにすることが多いです。
ゆるみや感染などがあるときは、抜くことを考えます。
担当医に確認してください。
-
Q
- 手術をすれば、関節炎にならないですか?
-
関節炎を完全に防げるわけではありません。
手術の目的は、
チェーンが外れることによる痛みや歩きにくさを減らすことです。
手術のあとも、体重管理と運動は続けましょう。
-
Q
- 両方の膝を一度に手術できますか?
-
できる場合もあります。
同じ日に両方するか、片方ずつにするかは、
膝の状態や体格を見て担当医と相談します。
-
Q
- 年をとってからでも手術できますか?
-
年齢だけで決めるわけではありません。
全身の状態や麻酔の安全性、
前十字靭帯など、ほかの膝の病気も合わせて考えます。
まとめ
パテラの膝は、一頭ずつ違います。
だから、決まった一つの手術で、
すべての膝を治せるわけではありません。
手術は、
チェーンの通り道を作り直す修理です。
手術のあとも、体重管理やすべらない床など、
膝をいたわる毎日を続けていきましょう。
多くの膝で経過は良好です。
ただ、重いグレードほど合併症は増えやすいので、
手術のあとの過ごし方がとても大切です。
次回は、
手術のあとのリハビリとお散歩のお話です。
パテラシリーズ(全4回)
同じ自転車のチェーンのたとえで、
順番に読めるようになっています。
- 第1回 犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?原因・グレード・症状
- 第2回 パテラは手術する?しない?判断の目安とおうちでできること
- 第3回 パテラの手術とは?方法・結果・合併症(この記事)
- 第4回 パテラの手術後のリハビリとお散歩
参考にした資料
- ※1 Lee J, Sim H, et al. Biomechanical analysis of canine medial patellar luxation with femoral varus deformity using a computer model. BMC Veterinary Research. 2020;16:471. doi:10.1186/s12917-020-02644-5
- ※2 Tomo Y, Edamura K, et al. Evaluation of hindlimb deformity and posture in dogs with grade 2 medial patellar luxation during awake computed tomography imaging while standing. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2022;35(3):144-152. doi:10.1055/s-0041-1740607
- ※3 Bosio F, Bufalari A, Peirone B, Petazzoni M, Vezzoni A. Prevalence, treatment and outcome of patellar luxation in dogs in Italy. A retrospective multicentric study (2009-2014). Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2017;30(5):364-370. doi:10.3415/VCOT-16-05-0073(PubMed 28763525)
- ※4 Wangdee C, et al. Evaluation of surgical treatment of medial patellar luxation in Pomeranian dogs. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2013.
- ※5 Willauer CC, Vasseur PB. Clinical results of surgical correction of medial luxation of the patella in dogs. Veterinary Surgery. 1987;16(1):31-36.(PubMed 3507123)
- ※6 Daems R, Janssens LA, Béosier YM. Grossly apparent cartilage erosion of the patellar articular surface in dogs with congenital medial patellar luxation. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2009;22(3):222-224. doi:10.3415/VCOT-07-08-0076
- ※7 Cashmore RG, Havlicek M, Perkins NR. Major complications and risk factors associated with surgical correction of congenital medial patellar luxation in 124 dogs. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2014;27(4):263-270. doi:10.3415/VCOT-13-08-0100
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