【現役獣医がしっかり解説】犬の心臓病・僧帽弁閉鎖不全症のステージと治療法
健康診断で「心雑音がありますね」と言われたんです…
うちの子、症状は何もないんですけど大丈夫でしょうか?

大切なタイミングでの発見ですね。
小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)かもしれません。

心臓の病気って怖いイメージがあって…
今すぐ薬を始めたほうがいいんですか?

大丈夫、落ち着いてお話ししましょう。
MMVDはステージごとに対応が違います。
今日は世界標準のACVIMガイドラインを
やさしく紐解いていきますね。

「心雑音があります」と言われたけれど、
何をすべきか分からない。
犬の僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)は、
小型犬に最も多い心臓病として知られています。
北米の一次診療では、
心疾患の約75%を占めると報告されています。
まず難しい話より前に理解をする記事も書きましたので
先に読んで欲しいです。

でも、心雑音が聞こえたからといって
すぐに薬が必要とは限りません。
大切なのは、
「今、どのステージにいるのか」を正しく見極めること。
この記事では、2019年に改訂された
ACVIM(米国獣医内科学会)コンセンサスガイドラインに基づいて、
ステージ別の考え方と
飼い主さんにできることを解説します。
ACVIMガイドラインとは
米国獣医内科学会(ACVIM)が
専門医パネルの合意に基づいて策定した、
犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断治療の国際的な指針です。
世界中の獣医師が診療の基準として参考にしています。
- MMVDは北米で犬の心疾患の約75%を占める最も多い心臓病
- 無症状期の「ステージB2」から適切な薬で心不全発症を遅らせられる
- お家での安静時呼吸数の測定が、心不全の悪化を早く察知する鍵
犬のMMVD(心臓病:僧帽弁閉鎖不全症)とは?なぜ小型犬に多いのか
MMVDは正式には
粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)といいます。
難しい名前ですよね、、、
心臓には
血液が逆流をしないように4つの弁がありますが、
左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が
加齢とともに変性して閉まりが悪くなる病気です。
弁がしっかり閉じないと、
血液が逆流(僧帽弁逆流)するようになります。
逆流が積み重なると、心臓は徐々に拡大していきます。
どんな犬がなりやすい?
| リスク要因 | 詳細(ACVIMガイドラインより) |
|---|---|
| 犬種 | 小型犬に多い。 キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは特に好発犬種 |
| 性別 | 雄犬での発生は雌犬の約1.5倍 |
| 年齢 | 加齢とともに増加。 小型犬では13歳までに最大85%に弁病変がみられる |
| 大型犬の場合 | 発生頻度は低いが、 進行が速く心筋機能障害を起こしやすい傾向 |
少なくとも30%の症例では、
右心房と右心室の間の「三尖弁」にも
同様の変性が起きることが報告されています。
MMVDの病理学的な特徴
腱索(弁を支える糸状の構造)のコラーゲン含有量や
その配列に変化が起こり、弁がもこもこと肥厚します。
この変性が進むほど弁の閉じ方が不完全になり、
逆流量が増えていきます。
4つのステージ分類を知ろう
ACVIMガイドラインでは、
MMVDを4つのステージに分類しています。
ステージごとに治療方針が異なるため、
「今どこにいるのか」を把握することがとても大切です。
Stage A
発症リスクはあるが、心臓に異常なし
好発犬種(キャバリアなど)ではあるものの、
心雑音も構造的な異常もない段階。
構造的な異常あり、でも症状はなし
心雑音があり、僧帽弁の病変が認められる段階。
さらにB1とB2に分かれます。
心不全の症状が現在あり、または過去にあった
咳・呼吸困難・運動不耐などの心不全徴候が出現。
薬物治療が中心になります。
標準治療が効きにくくなった状態
通常量の内服での管理が難しい末期段階。
ステージB1とB2の違い
| 段階 | 特徴 |
|---|---|
| Stage B1 | 心雑音はあるが、 レントゲンや心エコーで心臓の拡大がない、もしくはまだ治療基準に満たない |
| Stage B2 | 症状はないが、僧帽弁逆流によって左心房と左心室が明らかに拡大している段階 |
ステージB2の診断基準(すべて満たすのが理想)
- 心雑音のグレード ≥ 3/6
- 心エコーでのLA:Ao比(左心房/大動脈径) ≥ 1.6(右側短軸像・拡張早期)
- 体重で補正した左室拡張末期径(LVIDDN) ≥ 1.7
- 犬種補正済みVHS(脊椎心臓スコア) > 10.5
※これらすべてを満たすことで、治療開始のメリットが最も確実とされます。
ステージA・B1
無症状期の過ごし方
何もしなくていいんですか?

よくいただく質問です。
ACVIMガイドラインでは、
ステージAとB1は薬も食事療法も推奨していません。
この段階で治療を始めても心不全の発症を遅らせる効果は示されていないためです。
でも、やるべきことはある
- 年1回の聴診(かかりつけ獣医での健康診断)
-
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやダックスフンド、ミニチュア&トイプードルなどの好発犬種では、ルーチンの健康管理として年1回の聴診が推奨されています。
- 6〜12ヶ月ごとのエコー再評価(ステージB1)
-
心雑音が確認されている場合は、画像検査で進行の有無を確認します。
心エコーが難しい場合はレントゲンで代替します。
- 繁殖犬については繁殖停止の検討
-
早期(6〜8歳までの繁殖適齢期)に心雑音や僧帽弁逆流が確認された個体は、遺伝的背景がある可能性があるため繁殖を控えることが推奨されています。
「症状がないから大丈夫」ではなく、
「症状がないうちにこそ定期検査を」

ステージBからCに進むタイミングを見逃さないことが、
長く元気でいるための鍵です。
聴診だけでなく、心エコー検査ができる病院を探せると安心です。
ステージB2
クスリを始める「タイミング」が鍵
以前の「症状が出てから治療を始める」から
現在は「症状が出る前の心拡大がある段階」で治療を開始することで、心不全発症を遅らせられることが分かってきました。
ステージB2の治療
- ピモベンダン(強心薬)の投与
-
ガイドラインで最も強く推奨されている薬です。
心臓の収縮力を高めつつ、血管を広げる働きがあります。
ステージB2での投与により、心不全発症までの期間を
延長することが臨床試験で示されています。
- 食事療法の開始
-
この段階から軽度のナトリウム制限が推奨されます。
- 塩分は控えめに(ただし極端な制限ではない)
- 嗜好性のよい食事で、十分なタンパク質とカロリーを確保
- 体重維持・筋肉量維持が目標
- 外科治療(僧帽弁修復手術)という選択肢
-
近年、一部の施設で
僧帽弁形成術(手術で弁を修復する治療)が
行われるようになってきました。費用とアクセスの課題はありますが、選択肢の1つとして覚えておくと良いでしょう。
ピモベンダンの内服は1日2回、12時間間隔が基本です。
飲み忘れを防ぐために、
投薬スケジュールアプリや毎日のルーティンに組み込む工夫が大切です。

ステージC
心不全と向き合う日々
咳が出たり、呼吸が速くなったり、
夜中に苦しそうにしていたり。
こうしたサインは、
心不全(ステージC)の可能性があります。
ステージCは「現在または過去に心不全の症状がある」状態です。
治療は在宅管理(慢性期)と入院管理(急性期)に分けて考えます。
ステージCで追加で使われる主な薬
- 利尿剤(フロセミド、トラセミド)
-
肺水腫をコントロール。
症状に応じて調整します。
- ACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
-
血管を広げて血圧を下げることで頑張りすぎている心臓の負担を和らげる薬です。
- スピロノラクトン
-
心不全が進むと過剰になるアルドステロンというホルモンを抑える薬です。
心臓や血管の繊維化を防ぐ作用もあり、
必要な場合は利尿剤と併用することがあります。
急性の呼吸困難は救急対応が必要です
激しい呼吸困難・口を開けて呼吸する・チアノーゼ(舌が紫)などは、
肺水腫が急激に悪化している可能性があります。
すぐに夜間救急を含む動物病院を受診してください。
ステージCで知っておきたいこと
- 血液検査はなぜ必要?
-
フロセミドやACEIを使い始めると、腎臓や電解質に影響が出ることがあります。
- 血清クレアチニン、BUN、電解質をチェック
- クレアチニンが基準値から30%以上上昇した場合は腎障害に注意
- 低カリウム血症はトラセミド使用時に特に注意
- NT-proBNPという血液マーカーって?
-
心臓のストレスを反映する血液マーカーです。
特に「咳の原因が心臓病なのか気管の病気なのか判断が難しい」ときに役立ちます。
- 咳止めは使っていいの?
-
咳の原因が肺水腫ではなく
拡大した心臓が気管を圧迫して起こる咳の場合に限定的に使用します。自己判断での使用は避けて、主治医に相談しましょう。
ステージD:難治性心不全への対応
ステージDは、
標準的な治療では症状がコントロールできなくなった段階です。
- ピモベンダンの1日3回投与への増量
- 肺高血圧対策
- 降圧剤
- 外科手術
胸水・腹水が溜まった時
ステージDでは胸水や腹水がたまることがあります。
呼吸困難や不快感が強い時は、
胸水・腹水穿刺(針で抜く処置)で
速やかに楽にしてあげる選択が取られます。
お家でできるモニタリング
ここ、ものすごく大切な話です。
ACVIMガイドラインでは、
「安静時呼吸数の増加が、心不全悪化の最良の予測因子」と明記されています。
病院に行かなくても、
お家で毎日チェックできる指標です。
測定の手順
起きて動いている時や、パンティング(はあはあ)しているときの呼吸数はカウントしません。
スヤスヤ眠っている時、静かに横になっている時が測定のタイミングです。
お腹や胸が上下する動きをカウントします。
「吸って吐いて」で1回です。
15秒計測して4倍すれば1分間の呼吸数になります。
朝起きた時・夜寝る前など、ルーティンに組み込むとブレが少なくなります。スマホのメモやノートに記録しましょう。
普段の安静時呼吸数のベースラインから明らかに増加した場合、心不全の悪化が始まっているサインのことがあります。
具体的な基準値は担当獣医師と相談して決めましょう。
こんなサインは急いで受診を
- 安静時呼吸数が普段より明らかに多い(呼吸が荒い)
- お腹を使った苦しそうな呼吸
- 舌や歯ぐきの色が紫・青っぽい(チアノーゼ)
- 立ったまま動けない・横になれない
- 失神、ぐったり
こうしたサインは夜間でもためらわずかかりつけ病院や夜間救急へ。

食事と生活の工夫
食事の工夫は、
心臓の子の暮らしを支える大きな柱のひとつです。
| ポイント | 具体的な内容 |
|---|---|
| カロリー | 維持量(体重1kgあたり約60 kcal/日)を目安に、体重減少を防ぐ |
| タンパク質 | 十分量を確保。重度の腎不全がない限り低タンパク食は避ける |
| 塩分(ナトリウム) | 適度に制限。ドッグフードだけでなく おやつ・人間の食べ物・お薬補助食品の塩分にも注意 |
| カリウム | 低カリウム血症があれば補充を検討 |
| オメガ3脂肪酸 | 食欲低下・筋肉量低下・不整脈がある子では補充を検討 |
心臓病の子の「やせ」に注意
心不全が進むと、
心臓悪液質と呼ばれる
筋肉量の減少が起こることがあります。
これは予後に大きく影響する上、
いったん起きてしまうと治療が難しい症候群です。
予防のほうがはるかに楽と
ガイドラインでも強調されています。
食欲が落ちてきたら、下のような工夫を。
- 温めて香りを立たせる
- ウェットフードを混ぜる
- 種類を変えて飽きさせない
「食べてくれること」そのものが治療の一部です。
サプリメントや療法食については、
必ず主治医と相談した上で選びましょう。
まとめ:今日からできること
MMVDは「進行する病気」ですが、
適切なタイミングの治療で進行を遅らせられる病気でもあります。
特に小型犬やキャバリアなどの好発犬種は、
シニア期に入ったら心エコー検査を1年に1回受けると安心です。
「B1」「B2」「C」のどこにいるかで対応は大きく変わります。B2なら治療開始のベストタイミングです。
ピモベンダンは12時間ごとが基本。
自己判断での中止・減量は絶対に避けましょう。
いつもと違う日を早く気づくことが、命を守る最大のホームケアです。
心臓悪液質の予防は「早期発見・早期介入」。
気になる変化があれば受診時に主治医に伝えましょう。
心臓病は「一緒に歩む病気」
MMVDと診断されても、
ステージに合った治療と丁寧なホームケアで
愛犬との穏やかな時間を続けることができます。
困ったことがあったら、ひとりで抱え込まず
いつでもかかりつけの先生に相談してくださいね。
よくある質問
- 心雑音を指摘されたら、すぐに薬を始めるべきですか?
-
いいえ、必ずしもそうではありません。
ガイドラインでは、ステージA・B1では薬物治療は推奨されていません。
治療開始のタイミングはステージB2(心拡大あり&無症状)からが基本です。そのため、まずは心エコー検査やレントゲン検査で「今どのステージにいるか」を正確に評価してもらうことが大切です。
- キャバリアですが、若いうちから何か予防できますか?
-
現時点で、MMVDの発症そのものを予防する薬はありません。
ガイドラインでも、ステージA(好発犬種で症状も心雑音もない状態)では薬物治療は推奨されていません。できることは、年1回以上の聴診と健康診断で早期に発見すること、繁殖予定がある場合は心臓専門医による検査を受けることです。
- ピモベンダンは一生飲み続けるのでしょうか?
-
基本的には、ステージB2以降で開始した場合は継続投与が原則です。
自己判断での中止は症状悪化のリスクがあるため絶対に避けてください。用量や投与回数はステージや体調によって調整されます。
必ず主治医の指示に従いましょう。
- 咳が増えてきました。心不全の悪化ですか?
-
可能性はありますが、咳にはいくつかの原因があります。
MMVDの犬の咳は、複数のパターンがあります。- 肺水腫による場合
- 拡大した心臓が気管を押し上げて起こる場合
- 気管虚脱など別の疾患による場合
NT-proBNPという血液マーカーが正常に近い場合、心臓が咳の原因ではない可能性が示唆されます。咳が続く場合は早めに受診しましょう。
- 塩分を制限すると決めましたが、どのくらい厳密にやればいいですか?
-
ガイドラインでは「適度な制限」が推奨されています。
極端に制限しすぎると嗜好性が下がり、食べてくれなくなるリスクがあります。ポイントは、ドッグフードだけでなくおやつ・人間の食事のおすそ分け・お薬補助食品の塩分にも注意を向けること。
食事療法の詳細は主治医と相談しながら決めましょう。
- 手術(僧帽弁形成術)は検討したほうがいいですか?
-
熟練した施設で受けられる場合、進行したステージB2やステージCの症例で選択肢として検討される治療です。
ただし、施設数が限られる・費用が高額・周術期のリスクがあるなどのハードルもあります。気になる場合は、まずかかりつけ獣医に相談し、心臓専門医や外科専門施設を紹介してもらうといいと思います。
- MMVDと診断されたら、あとどのくらい一緒にいられますか?
-
ステージや治療への反応、全身状態によって経過は大きく異なるため、
一概にお答えできません。
無症状期(ステージB)が何年も続く子もいれば、
診断時にすでに心不全を発症している子もいます。ACVIMガイドラインは「適切な治療で生活の質を保ちながら生きられる可能性」を支えるための指針です。
具体的な予後については主治医とよく相談してください。
今できる最高の選択を。
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とても嬉しいです。
※この記事が、飼い主さんと動物たちの
安心につながればうれしいです。
ただ、体調や治療の判断はその子ごとに違います。
実際の方針については、
必ず主治医の先生の意見を大切にしてくださいね。
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