【手術をする獣医が解説】犬の前十字靭帯断裂は手術しないとどうなる?保存療法でできることと限界

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手術はできれば避けたいのですが…
しないとどうなりますか?

手術をしない方法もあります。
ただ、できることと限界があるんです。

どこまで大丈夫なんでしょう?

坂道に止めた車で、
順番に考えてみましょう。

このシリーズでは、
犬の膝を坂道に止めた車、
前十字靭帯をサイドブレーキにたとえています。

前回は、
坂を平らにする手術と、
代わりのワイヤーを張る手術のお話をしました。

今回は、
手術をしない方法(保存療法)のお話です。
- 切れたブレーキ(前十字靭帯)は、自然にはつながらない
- できるのは、荷物を減らす・ゆっくり走る・補助ブレーキを鍛える・痛みをとる
- 体の小さい子でも、うまくいかず手術が必要になることがある
- 体の大きい子・活発な子は、うまくいかないことも多い
- 後からタイヤ(半月板)が傷むことや、関節炎が進むことがある
手術をしないと、膝の中で何が起きる?
ブレーキが壊れた車は、
荷物をのせるたびに
坂を少しずり落ちます。
そのたびに膝の中がこすれ、
体は膝のまわりを厚く硬くして、
車を支えようとします。
うまくいくと、
この硬さと筋肉の力で
車がずり落ちにくくなり、
痛みが落ち着いていきます。
ただ、坂は下り坂のまま。
ブレーキも戻りません。
車が止まりやすくなる工夫で支えるのが、
保存療法です。
保存療法でできる4つのこと
① 荷物を減らす(体重管理)
荷物が軽いほど、
車は坂を下りにくくなります。
保存療法でも手術でも、
体重管理はとても大切な土台です。
理想の体重かどうかは、
担当医と一緒に確認しましょう。
太りにくい体づくりは、
子犬のころから始まっています。

体重は、週に1回など決まった間隔ではかると、
増えた・減ったに気づきやすくなります。
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体重の記録は、私が作っているアプリ「わんダフルデイリー」でもつけられます。
グラフで見られるので、
担当医と一緒に目標の体重を確かめるときにも便利です。
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② ゆっくり走る(運動制限)
膝の中が落ち着くまでは、
車を急に走らせないことが大切です。
- 短いリードで、ゆっくりお散歩
- ダッシュ・ジャンプ・ボール遊びはお休み
- 階段・ソファの上り下りを減らす
- すべる床には、マットやラグを敷く
運動制限は、決まった日数で終わるものではありません。
歩き方(歩様)を見ながら、
続けるか・ゆるめるかを決めていきます。
良くなってきたように見えても、
また悪くなることがあります。
そのときは、もう一度運動制限に戻します。
すべる床やソファの上り下りには、
こんなものも役に立ちます。
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③ 補助ブレーキを鍛える(筋肉)
太ももの筋肉は、
ブレーキを助ける補助ブレーキです。
痛みが落ち着いてきたら、
ゆっくりした歩行などで
少しずつ筋肉をつけていきます。
おうちでできるのは、
膝への負担が小さい運動です。
- 短いリードで、ゆっくり歩く
- おすわり → たっち を、ゆっくりくり返す
- 立ったまま、体重を左右・前後にゆっくり移す
ジャンプや階段は、
膝への負担が大きい運動です。
担当医のOKが出るまではお休みしましょう。
どの運動をどのくらいするかは、
痛みの様子を見ながら担当医と決めます。
リハビリを取り入れている病院もあります。
④ 痛みをとる(痛み止め)
痛いと足を使わなくなり、
補助ブレーキ(筋肉)がやせてしまいます。
痛み止めで痛みをとることは、
足を使えるようにするためにも大切です。
痛み止めには、
毎日の飲み薬のほかに、
月に1回の注射で使う新しいタイプ(抗NGF抗体)もあり、
関節炎の痛みを和らげる効果が報告されています。(※2)
強い痛みがある時期は飲み薬でしっかり抑え、
落ち着いたら減らしていく、
というように、時期によって使い分けます。
お薬の種類や量は、
必ず担当医の指示どおりに。
人の痛み止めには、
犬にとって危険なものがあります。
自己判断で与えないでくださいね。
体格や体重も関係する
保存療法がうまくいくかどうかには、
荷物の重さ(体格や体重)も関係します。
体重が多めの犬40頭で
手術(TPLO)と保存療法を比べた研究では、
手術をした犬の方が経過が良かった
と報告されています。(※1)
体が小さいから大丈夫、
と言い切れるわけではありません。
活発さ、坂の形、
反対の足の状態によっても変わります。
体の小さい子や、
年齢や持病で手術を選べない子もいます。
そんな子でも、諦める必要はありません。
体重・運動・痛み止めを組み合わせて、
楽に歩ける毎日を一緒に目指していきましょう。

タイヤ(半月板)が後から傷むリスク
ブレーキが壊れたままだと、
車が坂をずり落ちるたびに、
タイヤ(半月板)がはさまれます。
最初は大丈夫でも、
後からタイヤが傷むことがあります。
前十字靭帯断裂で手術をした犬の443膝を調べた研究では、
およそ3分の1(36%)で内側の半月板が傷んでいました。
ブレーキが完全に切れている膝は、
一部だけ切れている膝より
半月板が傷みやすかったと報告されています。(※3)
この研究では、半月板を守るために
手術を必要以上に先のばしにしないことがすすめられています。
- 一度良くなったのに、また足を上げる
- 歩くとカクッと音がする
- 急に痛みが強くなった
保存療法の途中で、
手術を考え直すこともあります。
関節炎は少しずつ進む
ブレーキが壊れた膝では、
手術をしてもしなくても、
関節炎は少しずつ進むことが多いとされています。
一度できた関節炎は、元には戻りません。
治すというより、
長く上手に付き合っていくものと考えます。
坂道の表面が、
少しずつでこぼこになっていくイメージです。
荷物を減らすこと、
補助ブレーキを鍛えることは、
関節炎とうまく付き合うためにも役立ちます。
反対の足のブレーキにも気をつけて
前十字靭帯は、
年齢とともに少しずつ弱くなって切れることが多い靭帯です。
そのため、反対の足も後から切れることがあります。
前十字靭帯断裂の犬511頭を調べた研究では、
およそ4割(38.7%)が両方の足で切れていました。
反対の足が切れるまでの期間は、
平均で1年ほど(約58週)でした。(※4)
片方の足をかばっている間は、
反対の足にも荷物がかかります。
体重管理と筋肉づくりは、
反対の足を守るためにも大切です。
急に反対の足を上げるようになったら、
早めに受診してくださいね。
保存療法と手術、どう考える?
- 体格
- 普段の運動量
- 年齢・持病(麻酔のリスク)
- タイヤ(半月板)の傷み
- 反対の足の状態
- ご家族の生活
若い子や活発な子では、
手術を選ぶことの方が多いです。
保存療法は、
年齢や持病で麻酔のリスクがどうしても大きいなど、
手術を選べない子のための方法と考えています。
保存療法で様子を見る場合も、
良くならないときは、
早めに手術を考えます。
ブレーキが壊れたまま時間がたつほど、
タイヤ(半月板)が傷んだり、
関節炎が進んだりしやすくなるからです。
大切なのは、
定期的に診てもらいながら、途中で見直すことです。
よくある質問
-
Q
- サポーター(装具)は効きますか?
-
補助として使われることがあります。
中型〜大型犬の飼い主さんへの調査では、
装具を使った子の86%、
手術(TPLO)を受けた子の98%で
飼い主さんが良い結果だったと答えていました。一方で、装具を使った子のおよそ半数(46%)に皮ふのトラブルがあり、
7%は装具に慣れることができませんでした。(※5)体に合わせて作ることや、こまめな皮ふのチェックが必要です。
使うかどうかは、担当医に相談してください。
-
Q
- サプリメントは?
-
関節のサプリメントは、あくまで補助です。
ブレーキ(前十字靭帯)が
元に戻るわけではありません。関節の成分の中では、
オメガ3脂肪酸(魚の油)に、
関節炎の犬で足に体重をかけやすくなったという報告があります。(※6)
ほかの成分は、まだはっきりした根拠が少ないとされています。(※7)お薬との組み合わせもあるので、
始める前に担当医に相談してください。
-
Q
- どれくらいで良くなりますか?
-
子によって大きく違います。
保存療法は、その子の体格や活発さ、
膝の中の状態で経過が変わるため、
一概には言えません。
歩き方を見ながら、担当医と一緒に見直していきましょう。
-
Q
- ずっと安静にしていればいいですか?
-
安静にしすぎると、筋肉が落ちてしまいます。
痛みが落ち着いたら、
担当医と相談しながら、
少しずつ歩く量を増やしていきましょう。

まとめ
保存療法は、
荷物を減らし、ゆっくり走り、
補助ブレーキを鍛えて、
壊れたブレーキを支える方法です。
体の小さい子でも、うまくいかないことがあります。
大きい子や活発な子では、限界もあります。
次回は、
手術のあとのリハビリとお散歩のお話です。
前十字靭帯シリーズ(全5回)
同じ坂道の車のたとえで、
順番に読めるようになっています。




参考にした資料
- ※1 Wucherer KL, Conzemius MG, Evans R, Wilke VL. Short-term and long-term outcomes for overweight dogs with cranial cruciate ligament rupture treated surgically or nonsurgically. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2013;242(10):1364-1372.(PubMed 23634680)
- ※2 Corral MJ, Moyaert H, Fernandes T, et al. A prospective, randomized, blinded, placebo-controlled multisite clinical study of bedinvetmab, a canine monoclonal antibody targeting nerve growth factor, in dogs with osteoarthritis. Veterinary Anaesthesia and Analgesia. 2021. doi:10.1016/j.vaa.2021.08.001
- ※3 Hayes GM, Langley-Hobbs SJ, Jeffery ND. Risk factors for medial meniscal injury in association with cranial cruciate ligament rupture. Journal of Small Animal Practice. 2010;51(12):630-634. doi:10.1111/j.1748-5827.2010.01003.x
- ※4 Grierson J, Asher L, Grainger K. An investigation into risk factors for bilateral canine cruciate ligament rupture. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2011;24(3):192-196. doi:10.3415/VCOT-10-03-0030
- ※5 Hart JL, May KD, Kieves NR, et al. Comparison of owner satisfaction between stifle joint orthoses and tibial plateau leveling osteotomy for the management of cranial cruciate ligament disease in dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2016;249(4):391-398.
- ※6 Roush JK, Cross AR, Renberg WC, et al. Evaluation of the effects of dietary supplementation with fish oil omega-3 fatty acids on weight bearing in dogs with osteoarthritis. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2010;236(1):67-73.(PubMed 20043801)
- ※7 Vandeweerd JM, Coisnon C, Clegg P, et al. Systematic review of efficacy of nutraceuticals to alleviate clinical signs of osteoarthritis. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2012;26(3):448-456. doi:10.1111/j.1939-1676.2012.00901.x
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